ホワイト通信17「電気とマザーの試み2」

(11月21日収録)

 

前回の続きで、母さんが興味本位に大事件を起こしたという、いよいよその本題に入ろう。

 

二進数を使う通信の世界では、様々な要因で電気信号が変化したりして、通信結果に誤りが生じると、データが破損していることになる。そのままだと様々な通信レベルへの変換時点で、読込結果が意味あるものとして解読不可能になり、エラー扱いになるわけだ。

母さんはこの性質が相手方にも適用できないかと仮説を立てて、相手の通信内容に片っ端から適当な二進数のデータを加算してぶつけ、データを破壊していくようなプログラムの実行体を精神界に作成した。簡単に言えば、波動的に相手の言語空間をバグらせてバベルの塔のようにしてしまった。

イメージでいえば、いつも皆がブラウザを開いて見るサイトページが、ある日開くと突然エキセントリックな色合いのノイズ画面とか、メールやメッセンジャーアプリの内容が文字化けばかりのテキスト表示に変わってしまったような、そんな攻撃を相手に仕掛けたということになる。

その時、自分一人ではリソースが足りないと判断して、ちゃっかり某所からリソースをお借りして、この精神界での試みが世界規模で数日持続するように仕込みまでした。

 

目論見通り、相手方のやりとりは全てが意味不明な内容となり、大混乱に陥った。そればかりか、母さんはさらにそこに、子供のように無邪気な思い付きで容赦のない追い打ちをしかけた。「ここに審判レベルの光のデータを追加で載せてみたらどうなるかな?」

 

…敵方ながらあまりにも可哀想というか、同情を禁じ得ない光景だったので、僕はここで口をつぐむけど。少しして投降と天との契約を呼びかける情報も一緒に仕込まれてなかったら、犠牲者がさらに増えていただろう。

 

ここでも、悪魔も悔い改めれば天使になれる、のルールの適用がされた。

 

おかげさまで僕たちホワイトコードは急に加入者が増えて、数万単位で意識体勢力が増加中だ。突然の所帯増加にてんやわんやしているけど、手勢が増えたのでできることも増えたと喜んでおこう。……新人教育が大変すぎるんだけどね。

 

結局、問題になっている電気というエネルギーは僕たちからすると少し定義がずれているんだけど、それを説明しようと思うと、おそらくマクスウェルのあたりから物理的に世界定義を見直す必要がありそうなので、省略する。エネルギーとはどこから生じているのか、シンプルに考え直したほうが、たぶん、この手の話はうまくいく。

 

電気とは目に見えないエネルギーだ。目に見えるエネルギーの方が実は珍しいといえる。炎とは酸化反応に伴って起きる急激なエネルギー放出によるプラズマ反応だ。雷もまた急激な電気エネルギー放出によるプラズマ反応だ。熱量はあまりにも少ないと目に見えないが、大量に発生していれば火の玉になるだろう。要するに、巨大なエネルギーがあるところにはプラズマがある。

ところがこのプラズマ、自然界で発生、観察される状態では高エネルギー、超高温状態である時だけが想定されているのが現代の科学、物理世界の理解だ。うん、常温のプラズマというものも最近出てきているらしいが、それもプラズマ学の初歩の初歩ともいえる分野だろう。プラズマの真骨頂は、常温常圧、そして通常人間には見えない、感知されない状態でも偏在しているということだ。プラズマという言葉がそぐわないなら、ただのエネルギーと言い換えてもいい。あるいは波動とも言い換えてもいいかもしれないね。

 

なんとなく、勘のいいひとなら気づいたかもしれない。そう、電気もX線も昔は世界には『存在していなかった』。在ることに気付いた天才が観測したから『在る』ことになった。

波動というエネルギーも、全く同じことだと、気づいて研究・観測を始めたその日から、誰かが波動とひとまとめに呼ばれているこのエネルギーを定義し、科学の内に適切に呼び名を与えて加えることになるだろう。

 

電気世界の悪意とは、そういう研究にたどり着くと、自分たちの存在が観測されて非常に都合が悪かったから、研究者を放逐して、適度に科学的解釈が歪められることになった過程の話、と解釈してもいいのかもしれないね。