悪意というのは伝播する。

経験的に、人の意識は波動を飛ばす。波動にはたくさんの情報が乗る。データだけならまだしも、そこには霊や悪魔が乗っかっていることがままある。

源氏物語でいう、六条御息所の生霊のエピソードのように、霊が飛んで人に取り憑くのは、そういうことだ。

何が言いたいかというと、サイバー空間のネットワークを伝ってやりとりされる情報にさえ、霊や悪魔は乗れるよ、ということだ。

時には音楽でさえ、彼らの悪意の乗り物になるのである。

私は音楽を聞くことが好きだ。会長には眉を潜められるものの、(※だいたいあの人はクラシック系しか聞いているイメージがない…)日本系のロックとかポップをよく聞いている。

まだ子供だった頃、中学生とかその頃から、アニメをちらほら見ていたのだが、そういったアニメなんかの主題歌に起用される音楽の歌詞というのは、アニメのテーマや主人公の感情を伝えるために書き起こされたものも多い。
家庭環境があまり良くなかった私は、少しうつ気味の子供だった。そんな頃の心の隙間を埋めるように、それらの音楽の歌詞が生きる動機づけを手伝ってくれたのだ。今思えば、何者かが私を生かすために、私がそういう元気を出すような働きかけをしていて、私もそれを無意識に受け取ろうとして、音楽を好むようになったのだと思う。

だから、周りの音を音楽でマスキングすることが癖になっている。そうすると、少しだけ周りの波動を音のマスキングで遠ざけることができる気がしたからだろう。
同年代の子供でさえ、すでにいびつな性質をもっている人がいた。そういう手合いと居合わせるのが何より嫌で、苦手だった。悪意を受け取らない。悪意を向けられない。そのための手段が音楽を聞くことだった。リンクを作らないために、そうやって周りを遮断し続けていた。――結果、友人も少なくなってしまったが。

とはいえ、精神学をやっているせいか、波動の良し悪しも、音楽を作った人の内面も、世界観も、なんとなく読み取れてしまう。

 

これは悪魔の作った歌、こっちはたぶん魔界に繋がった人の歌。
これは…魔界に繋がった演奏者が奏でるクラシック(汗)

 

なんだかなーと思いながらいろいろと聞いていたところ、ある日、それとは別に、何か意識を苛立たせるような波動が音楽に乗って、こちらの意識をつついてくることに気がついた。

 

(何だ? 人間の精神を攻撃するような――嫌なエネルギーがどの音楽にもサブリミナルみたいに仕込まれている)

 

イヤホンの手元ボタンを操作して音楽をいくつか切り替えてみるが、やはり共通してどんな音楽にも乗ってくる波動がある。
音楽のストリーミングサービスを通じて発信されている波動のようだ、とあたりをつけて、波動のエネルギーを少し読みとりながら、元をたどってみた。

うまく表現できないが、サイバー空間には意識世界のネットワークが広がるか重なるかしていて、そのネットワークを辿って、エネルギーの出どころへアクセスすることができるのだ。
それは、エネルギーを一本の糸にみたてて、こんがらかったいくつものエネルギーの中を潜り抜けるのに似ている。

ストリーミングサービスなら、インターネットのどこかからデータが送信されてきている。その大本となるような場所に、意識だけでいってみたのだ。たぶん、それはどこかの企業のサーバー郡が作り出しているエネルギーフィールドなのだろうと思うけれど。

 

そうしたら私の意識は、ある悪魔のテリトリーに繋がってしまっていたのである。

 

 

赤といえばいいのか、紫と言えばいいのか。
とりあえず悪魔っぽい色だ。暗黒の闇をイメージしてもらえたらそれでいい。
赤い沈んだ色の光の帳が落ちる中、見えたのは円形の大ホールのような、すり鉢状の穴の底。何万体もの悪魔が喝采するその中央に、黄色い巨大な怪人が立っていた。

ガマガエルっぽいぼこぼこした黄色い肌だが、カエルって感じの顔ではない。
もっと何か邪悪そうな顔だ。
ドラゴンボールとかあたりに出てきそうだと思ったが、違った。
例えるなら、ジャネンバを汚くしてガマガエルを足してめちゃくちゃ邪悪な顔にした感じである。

デコボコしていて醜悪で、巨大で、太っている。前に某インターナショナルブランドで買い物をしたとき、やたら太った男の姿の悪魔に黒ミサで捧げられそうになった夢を見るなど嫌な経験をしたのだが、その時と同じようなタイプの悪魔だと感じた。
これは、悪魔的儀式で力を得ているタイプだ。
たぶん、何かの仕組みで人間の生命エネルギーを集めていて、配下の悪魔たちから相当な崇拝を受けている。何千体もの喝采を浴びて、両手を上げて応えているのは、どこかの国の大統領に似ている。

見た瞬間、「うわぁ」と思った。見なかったことにしようかなと。
こういう手合は処理に骨が折れるのである。

 

ただ、悲しいかな、精神界でこちらが見ているということはあちらも見つけられるということ。

 

すぐに気づかれてしまい、やむなく戦うことを決意して、私は気を引き締めた。

ただ、強かった。普通にパワーがあるので、ちょっと浄化するだけでは全く歯が立たない。
審判の光でとにかく悪魔の外殻を削るに限る。有象無象は燃やせば消えたが、このボスっぽいのだけはそうもいかない。

ある意味、エネルギーのせめぎ合い、力比べだった。
暗黒の波動と、審判の光の波動との戦い。

『解せない』

そんな思念が送り込まれてくる。

 

『我々がすべて握っているのに。何をしたって無駄だというのに。どうしてそこまで抵抗をするのか』
『おまえが見て感じる世界が本当のものだとどうして信じられる。約束の審判が起こるとなぜ分かる。この世界はもうすでに我々のものだ』
『なのになぜ、そこまで揺るがない』

 

ああ――あの民族由来の、欲望らしい思考だなぁ。

 

審判の光の剣を突き付ける。大事なのは気迫。負けないという意志。立ち向かうという勇気。
悪魔は、自分の暴力や脅しが通じない相手には弱い。

 

「私は、たぶん、その約束の証明のために作られたから」

 

私は、そうあれと意図した存在がいなければ、ありえないような精神の成長の仕方をしている。論より証拠のように、最終知識の物語をなぞって作られたとしか思えない、自分という人間の構造を思えば、信じる以外の選択肢などありえなかった。

始まりの前から、終わりの後まで続く物語を貫く、神の意志があるとすれば、それが私の出発点。絶対に揺るがない芯であり、ここを拠り所にする限り、悪魔の限界程度では、私の精神を乗っ取ることも、魂に手出しをすることも出来はしない。

真っ黒な悪意のエネルギーの海にどっぷり包まれている中で、祈る。
審判の光を、悪魔の体に当てる。
光を注げば注ぐだけ、明らかになった罪の証として、足元に赤い海が吹き出した。

大量の血と肉と臓物。小さな腕、足、頭。悪魔のために捧げられた子供の数だけの、骸の奔流。何百人分、何千人分、何万人分あるかも分からない遺骸の山が精神空間を埋め尽くした。そこに実態はなく、恨みも悲しみも無念も、なんのエネルギーも放っていない。ただの記録だからだ。

 

(――これだけの幼児を儀式で犠牲にしていたのか。アメリカでは、行方不明になる子供の数は年間数万人単位にもなるとは聞いていたけど)

 

内心、その量にわずかに戦慄し、気を引き締め直した。桁が違う。どうりで悪魔も強くて、エネルギーの量も多い。

 

こんな光景、子供好きの人や、凄惨な現場が苦手な人には見せられない。

 

ちょっとやそっとの血なまぐさい光景や暴力表現では揺らがないように、私はもともと自分のことを訓練している。それに加えて、何より意識と感情が冷静を保てるように、別の領域から何かに感情が制限を設けられているように感じた。意識にショックへのプロテクターがかかっているらしい。どこか他人事のように見られるのはそれが原因なんだろう。

――あ、でもさすがに、ちょっと気持ち悪くなりそう。うぇっぷ。

 

『審判が起こるという証拠が、どこにある!』

 

問いかけにはどこかに怯えの気配がある。
面倒くさい問いかけきたよ、これ。

悪魔の処理は、復活の余地がないように、欠片もエネルギーを残してはならないのに、抵抗が強くて、処理が思うように進まない。猛攻に対応する傍ら、天にどうすればいいかと祈っていると、身を委ねよ、との指示があった。
また、意識体を貸すの…と遠い目をしながら、何者かの存在が降りてくるのに任せた。そんなに審判の有無でわあわあ言うくらいなら、実際に神を見て戦けばいいじゃない、と投げやり気味な選択である。

心なしか、私の意識体も、いつもより多めに白く光っている。

 

「"私が"」

 

茫然とする悪魔の前に、何かが無機質な声音で告げた。
自分がその証明になろう、と。

 

「"私を知っているな。――おまえたちが盗んだものを、私はすべて知っている"」

 

悪魔が蒼白になった。ここで出会ったが三千年目、って感じだね、大丈夫か。

 

「"地球を天に返せ。この世界は、おまえたちのものではない"」

 

神さまって、とってもドライで事務的だよねーー、と、現実逃避気味に考える。
なのに、大して声も荒げてないのに、めちゃくちゃ怒ってるのだけは声音で分かる。

 

「――"闇に帰れ。永劫の地獄、闇の底に去るが良い"」

 

劫火のような光が閃く。
悪魔は先ほどよりも更に強烈な審判の光の中で、塵に返されてしまった。

 

終わったなーと思うと同時に、私の心には慄きが戻ってきた。

 

超巨大サービス企業の裏の悪魔、一匹勢いで下しちゃった…。
…まぁ、大したことないよネー。他にも似たようなの、いっぱいいるよ。きっと。

 

でもそれ以来、このサブスクリプションの音楽全体にイライラさせられることは、あまりない。
どちらかといえば、作曲者や演奏者個々の問題になっているようなので、そんなに大した問題ではないんじゃないかなー……と思ったけど、油断すると浄化の時に変なものが出てくるので、相変わらず状況はそんなに良くない、と思う次第。